Passo a passo

●西尾駅から歩いて3分ほどのビルの1階に、ブラジル人向けの日本語教室がある。教えているのは、市役所で長年通訳をされている、日系ブラジル人の方である。
●小雨の降る土曜日の午後、15時を過ぎると生徒たちが集まってきた。長机が6つ、2列に並べられ、15人も入れば一杯になるようなこぢんまりとしたスペース。通ってくるのは主に子ども連れの母親や夫婦だ。親たちが勉強している間は、スタッフが子どもを見てくれる。子どもたちに親の学ぶ姿を見せることも、とても大切なのだ。
●内容は、ひらがなから始まり、あいさつや季節、数字、体調の伝え方など、基礎からしっかりと教えてもらえる。手作りのテキストはイラストやポルトガル語の丁寧な説明があり、取り組みやすく工夫されている。

●この日は「〜の」という表現を中心に授業が進んだ。先生がテンポよくポルトガル語で説明する。生徒は女性ばかり8人。私の、あなたの、彼女の、などと声を出して確認する。全部同じ「の」なのね、簡単じゃない〜、「あ」はどうやって書くんだったかしら、難しいわよね〜などと賑やかに進んでいく。みんなとても意欲的だ。
●授業では日本語だけでなく、日本人の習慣なども教える。子どもの学校に欠席連絡をするとき、まずは自分から名乗ることが礼儀である。名前だけ伝えても子どもが誰かわからないので、「〜の母です」と言わなくてはいけない。あいさつに関して、自分の職場では、夜勤の人もおはようございますと言うから、どうやって答えたらいいのか困る、という質問もあった。その人にとってはその時間が1日の始まりだから、そういうあいさつなのよ、と言われ、納得していた。
●でもね、教えてもなかなか覚えられない、すぐにまた振り出しに戻るのよ、と先生は言う。それでも、子どもの学校や職場で少しでも日本語を理解したいと、多くのブラジル人がお金を払い、時間を作って通ってくる。
●1時間半、休みなく続く授業の間、6歳の女の子と男の子が、親を待ちながらひらがなを書いたり、お絵かきをしたりしていた。2人とも、とても日本語が上手。今年から小学校に入るのだという。楽しみ?と聞くと恥ずかしそうにうなずいた。がんばっている両親を見ながら、彼らもこれからがんばって勉強していくのだろう。Passo a passo、一歩一歩。

(岡)