人生における必修科目とは?

●「人生における必修科目とは何ですか?」と問われたら、あなたは何をあげますか?これまで私は、このような問いかけをしたことがない。「人生における・・」と問われると、これまでの半世紀以上の私の人生の中に位置付けて考えなければならないが、これまで生きてきた以上に長い人生を過ごす高校生にとっても、これはとても大切な問いかけだ。

●学校における必修科目は、文部科学省の学習指導要領に定められている。一色高校に赴任する前の6年間、愛知県から東京都に単身赴任して、文部科学省教科調査官の任にあった私は、令和4年度から始まる高等学校(新)学習指導要領策定の主務者の一人として、非常に貴重な経験をさせていただいた。中央教育審議会の方針に従って、全国の大学や高校の先生方とチームを組み、概ね10年ごとに学習指導要領は改訂される。その経験からも、その時々の日本・世界の趨勢を踏まえた教育課程改訂の必要性を実感している。

●「人生における必修科目とは何ですか?」と問われると、世界の趨勢というよりも、人間存在の本質?(人間の本質が何かと問われれば、それは見い出していくものなのだろうが・・・。サルトルの言葉、「実存は本質に先だつ」という言葉を思い出す。)を視野に入れて考えなければならないだろう。その「問い」の一つの答えを提供してくれた番組が、NHK「よるドラ」で始まった。それは、『ここは今から倫理です。』(毎週土曜 後11:30、全8回)である。

●ドラマは、「人生における必修科目は倫理である」という設定で始まった。雨瀬シオリさんのマンガが原作である。シリアスな問題を抱えている高校生に対して、倫理教師・高柳(俳優の山田裕貴さん主演)先生が、倫理と哲学の言葉に出合わせるという形でストーリーは展開された。

●「倫理」は、日本の高校では、どちらかというと履修者が少ない(必修科目でない)という意味で、マイナーな科目(ヨーロッパでは、必修科目として小学生から学ぶ国がある)とされている。そこで学ぶ内容は、哲学的な「問い」が多い。「愛とは」、「人間とは」、「友情とは」・・。その内容を大学受験の知識として教えるのか、それとも「人生における必修科目」として、対話的な手法で生徒に問いかけるのかによって、生徒の受け止め方は異なるだろう。生徒が学ぶ科目の意義・意味・価値を実感できるような、「問い」を基軸とした授業デザインの必要性をあらためて感じた30分であった。

●このドラマの関連ミニ番組『ここはぺこぱと倫理です。』が、1月22日より放送される(毎週金曜 後11:40~11:45)。『ここは今から倫理です。』の各回の放送直後に、倫理教師・高柳先生がドラマ中のエピソードに関連する問いを投げかけ、視聴者のリアクションを番組公式サイト掲示板、公式ツイッターアカウントを通じて募集し、寄せられた投稿をこのミニ番組で紹介していく、という流れらしい。

●第1回目の放送直後に、倫理教師・高柳先生が出した「問い」は、「嫌われたくなくて断れなかったことがありますか?」である。

●昨年末から私が宣言した「哲学対話を始めます!」という試みに自信を与えてくれた番組に出会った。とてもうれしかった。私にとっては、遅れたお年玉である。答えの出ない悩みに寄り添い生徒と一緒に考えることが、私たちには求められていると思う。

●そして、改めて振り返る。「<あなたにとっての>人生の必修科目は何ですか?」

(村瀬)