哲学対話(その3)~統計が語る<未来からの問い・未来への問い>

哲学対話(その2)では、画家ポール・ゴーギャン(Paul Gauguin)の絵画「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」を取り上げ、パッチワークのように描かれた人類的視野からの人々の営みの光景から、各自が紡ぎだした言葉をつなげ、物語を創るための対話を行った。

●哲学対話(その3)では、世界人口の推移を表した折れ線グラフを取り上げる。取り上げる統計は、国連が2010年に発表した、1860年から2100年(西暦を示す横軸のピッチは20年ごとである)までの世界人口の推移/予想である。この統計は、数年前にある私立大学の英語の入試問題に使われていた。その時の問いは、「このまま人口が減少したらどんなことに人類は直面するか?」である。もちろん、英語の試験だから解答はすべて英文で記すことになる。

●哲学対話は、あるテーマについて、「ああだ、こうだ」と自分で考え、テーマと他者と対話する知的な活動であるから、特別の知識を必要とするわけではない。知識はあったにこしたことはないが、なければ調べればよいし、必要なら教えればよいのである。このことが、哲学対話の大前提である。想像力は創造力の源泉であり、豊かな想像力は対話によって育まれるのである。そして、必要な知識を身に付けていけばさらに深みが出てくる。そのことを捉えさせるために、この統計を選んだのである。だから、統計の使い方は、2つの段階を踏むことになる。第1段階の取り上げ方は次の通りである。

●まず、統計の縦軸(人口数)と横軸(西暦)をすべて消去した、ただの折れ線グラフにして生徒に提示する。そこで、次の3つの問いを発する。1つ目は、「これは、何かの動きを指したグラフです。何だと思いますか?どうしてそう思うのですか?」、2つ目は、「その場合の、縦軸と横軸は何になりますか?」、そして最後には、「その中で、何をテーマに対話したいですか?」と課題設定をする。哲学対話(その4)以降で行うテーマを皆で決めるのである。

●折れ線グラフは、時系列の推移の中での増減や広がり、深まり具合を視覚化できる統計である。となると、どんなことが頭に浮かぶか?これが楽しみである。睡眠の深まりの程度か、体重の増減か、朝起きてから寝るまでの万歩計の推移か?・・・。これまでの、数値化できる人生経験を反映したテーマが出るに違いない。どの考えが最も合理的で説得力があるか、面白いか、それがどう説明されるのか?が楽しみである。

●哲学対話のその1から3は、哲学対話の序論である。そこでは、対話のルールを確認したり、対話することの面白さや思考を深めるために必要な着眼点を学んだりした。その4からは、先に設定したテーマについて対話することを確認する。

●その3の最後には、第2段階へ導く。取り上げたこの統計は、私立大学の英語の入試問題であること、世界人口統計の推移/予想であることを告げ、入試問題の問いに日本語で答えていく。その際、知識の関連付けは、概念マップを作成しながら皆で共有できるように行う。そして、それらをまとめる作業の過程で、2つの方向性をもつ問いが存在することに気付かせることができよう。それは、<未来からの問い・未来への問い>である。

●今ある知識のみで対話を進めていくと、否応なしに調べなければならないことがたくさん見つかる。深みのある対話には、常に新たな知識が求められることに気付けば、学びに向かう態度は必然的に養われていくものである。未来からの問い・未来への問いを発し、自己の足元から思考を拡散・収縮していく対話こそ、一色高校版SDGsが目指す取り組みであることを確認しておこう。

(村瀬)