里帰り

お盆に故郷に帰省した折り、いつもの“ 海に行っていきました。子どもの頃、夏休みは毎日のようにこの海で遊んでいました。自転車で10分ほどの道のり。「車に気をつけなさいよ。海は危いからね。」いつも母親に、そう送り出されて海に向かいました。小学校に行くのと同じ道を行き、小学校を越えるとあと少し、松林が見えてくると車がだんだん増えていきます。松林に荷物を置き、海水パンツに着替えて、さあ海へ。浜茶屋(私の田舎では「海の家」のことをこう呼びます)の脇をすり抜け、車や観光バスが切れ目なく行き交う波打ち際を(「スピードを落として」というように)手を振りながら走り抜けました。

●やっとの思いで海にたどり着き、あとは思いっきり泳ぐだけです。海から浜辺をみると、時には、スポーツカータイプの車が水しぶきを立てながら走っていきます。こちらが手を振ると、観光バスのお客さんも手を振ってくれます。この海が、「波打ち際を観光バスでも走れる日本でも唯一のところ」であることを知ったのはずっと大きくなってから、たぶん高校生くらいのときでした。それまでは、浜なんてどこもこんなもんだと思っていました。この浜は、砂の粒が非常に細かくて、少し水分を含むとパンパンに固まっ4WD車でなくても走れるようになるとのこと。

●最近、この海に行くと、すごく気になることがあります。それは、「狭くなったなぁ」ということです。松林から波打ち際までの距離が、私の子どもの頃に比べて半分以下になったように思います。どんどん侵食が進んで狭くなる一方です。私の父親が子どもの頃は、「海に行くときは板切れが必需品」だったとのこと。松林で着替えて、板切れをもって海に向かって猛ダッシュ。真夏の太陽に晒された浜砂は、熱したフライパンのようにアッツアツ。全力疾走も限界に近づいたとき、足の裏の熱さも極限状態に。そんなとき、板切れを前方に投げ落とし、板の上に飛び乗って小休止。板切れがなければ波打ち際にたどり着けないくらい、浜は広かったとのこと。

●能登半島の西側、千里浜海岸と呼ばれるこの浜は、たぶん30年もすれば、完全に消滅してしまうんだろうと思います。そう考えると本当に淋しくなります。侵食を食い止める画期的な方法を、誰か発明してくれないでしょうか。期待しています。                                  

                                                    (長谷川)